弱い力(2)

弱い力とは何か?
もう少し、科学者たちの歴史的な思索を追ってみよう。

さて。
原子核の中には、陽子だけではなく、陽子と同数の「中性子」が存在していることは述べたが……、

実は、この「中性子」、ほおっておくと、崩壊してしまうのだ。
15分くらいすると、中性子は「パァン」と、はじけるように壊れちゃう。

具体的には、中性子は、
電子と反ニュートリノ」を放出して、陽子になってしまうのである。
この崩壊のときに出てくる電子を「ベータ線」と呼ぶので、これをベータ崩壊という。

反ニュートリノとは、ニュートリノの反物質であるが、それが何かは、とりあえず置いといて……、とにかく、

中性子が崩壊 → 陽子 + 電子 + 反ニュートリノ

ということなので、
中性子とは「陽子 と 電子 と 反ニュートリノの集まり」だとということになる。

そこで、科学者は考えた。
じゃあ、陽子に、電子と反ニュートリノを与えれば、中性子になるのではないか?
それは当然そのとおり。その考えは正しかった。

そうすると、原子核の中では、こんなことが起きると想像できる。

1)まず、陽子Aと中性子Bがある。



2)しばらくして、中性子Bが壊れて陽子Bになる。電子と反ニュートリノを放出。



3)陽子Aが電子と反ニュートリノを受け取って、中性子Aになる。



4)陽子と中性子の位置が入れ替わった状態。
 1)へ戻る。以後、その繰り返し。

この繰り返しを 外から眺めると、陽子と中性子が、入れ替わりながら、「電子と反ニュートリノ」をキャッチボールしているように見える。

実は、このように、2つの粒子が、1つの粒子を交換しあうとき、2つの粒子間に「力」が働く。これを物理学の用語で「交換力」という。

それはつまり……、

2人の男(陽子)の間で、1人の女(電子)が行ったりきたりしている状態

といえる。

その女(電子)は、A男のところにいたかと思えば、B男のところにいたりと……そんなことの繰り返し。

ようするに、
陽子とは「彼女がいない」の状態で、中性子とは「彼女持ち」の状態ということだ。

しかし、絶対的な物理法則により、「彼女持ち」は、一定期間後、「もう、うんざりだ」と言って、必ず崩壊する……(ベータ崩壊

そして、自由になった「女」は、他人の彼女になってしまうが、別れた男の方は、「やっぱり彼女がほし〜」と未練がましく泣き叫び、その女が、一方の男と別れてフリーになったら、また、ギュッとつかまえて「彼女持ち」に戻るのだ。

が、やっぱり、一定期間後、「もう、うんざりだ」と言って、必ず崩壊する……(ベータ崩壊

永遠に同じことの繰り返し……。

というわけで、科学者たちは、
「ねえねえ、あの2人って、反発しあっているのに、いつも一緒よねえ」
「あんた、バカねぇ〜、知らないの〜。あの2人の間に、○子がいてね……」
「え!うそ〜!だから、一緒なの?いやぁ〜、最悪〜」
という思索を行い、
陽子(男)同士が、原子核という狭い空間にいるのは、こういう事情ではないか?
と想像したのだ。

だが!!
実際に、科学者が、この「力」の大きさを正確に計算したところ、+の電荷で陽子同士が反発する力より、はるかに小さいってことがわかった。

だって、電子って、陽子に比べて、ものすごく小さくて、軽いんだもん。
だから、そんな「弱い力」じゃあ、陽子同士を結びつけるには、全然足りない。

そう!
陽子(漢)の絆は、
そんな尻の軽い電子(女)ごときでは、
結ばれてはいなかったのだ!


じゃあ、いったい、彼らの絆とは一体なんだろう?2人の漢を結び付けているもっと「強い力」があるはずだ!

というわけで、科学者の探求が続くのである。


(補足1)
原子核内部で働く2種類の「力」について、はっきりと名前がついていないとき、科学者たちが、その「力」を区別するため、「弱い方」とか「強い方」とか言っているうちに「弱い力」「強い力」という名前が正式名称になってしまった。そんなヘボイ名前のせいで、ロボットアニメでもSFでもあんまり出てこない。「弱い力バリア!!」 「強い力ビーム発射!!」 とかあっても……。

(補足2)
その前に問題が残っている。

なぜ、彼女持ちは、崩壊するのか?

つまり、
なぜ、ベータ崩壊が起きるのか?
という疑問だ。

そもそも「ベータ崩壊」しなければ、上記のような「力」も起こりえない。だから、上記の「力」のなかでも、「ベータ崩壊」は、より根源的な現象だと言える。

したがって、現代物理学では、より思索が進み、
「弱い力」=「中性子のベータ崩壊を引き起こす力」
となっている。
一般的に、「弱い力」といえば、こっちのことなので、ご注意を。
では、なぜ、彼女持……いや、中性子が崩壊するのか?という疑問については、クォーク理論の理解が必須なので、またの機会に。

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