強い力
なぜ、原子核という狭い場所に、陽子や中性子が集まっているのか?
これについて、「
ベータ崩壊による電子のキャッチボール(交換)」という理論が、当初、考えられたが、実際に計算してみると、
陽子と中性子を結びつける力としては、弱すぎるってことがわかった。
なぜなら、電子っていうのは、あまりに小さくて軽いからだ。そんなものをキャッチボールしても、たいしたことにはならない。
そこで、
湯川さんという科学者が、こう考えた。
「
電子だと、軽すぎて、陽子を結びつける力にはならないんでしょ?じゃあ、もう少し重たい、未知の粒子があって、それをキャッチボールしているんだよ」
まぁ、なんて簡単でいいかげんな発想なんでしょう。(しかも、実際にキャッチボールしている最中に思いつく)
とにかく、「
電子より200倍ほど重い未知の粒子」があると仮定して、それを交換していると考えれば、陽子たちを結びつけるのに十分な
強い力が働くことになる。
この未知の粒子は、「
電子より重くて、陽子よりも軽い」ということで、「
中間子」と呼ばれ、湯川さんの理論は「
中間子理論」と呼ばれることになる。
もちろん。こんな中間子理論は、世界中の科学者から強い批判を受けた。だって、中間子が存在する証拠なんて、どこにもなかったからだ。
ボーアも
アインシュタインも、すごい冷たかった。
ボーアが来日したときに、湯川さんは、彼らに中間子理論を説明したのだが、
「
へぇ〜、あなたって、未知の粒子が好きなんだねえ〜。ふ〜ん」と
相手にもしなかったそうな。
とまあ、当時の偉い科学者たちからは、徹底的に批判されたわけだが・・・、
その後、たまたま宇宙から飛んできた放射線の中に、湯川さんが予言したのと近い重さの未知の粒子が発見されたことから、いっきに湯川さんの理論が注目される。そして、湯川さんの中間子が実際に発見され、「中間子理論は正しい」ということになり、
1949年、湯川さんは、
日本人初のノーベル賞を受賞するのである。
(補足1)
結局、「
なぜ、原子核という狭い場所に、陽子や中性子が集まっているのか?」
という疑問の答えは、
「
中間子の交換により働く『強い力』でくっ付いているから」
となる。
ただし、「強い力」=「陽子同士の中間子のキャッチボール」というのは、強い力発見当時の話であって、今はクォーク理論として、より深く研究されている。現在の物理学では、「
陽子同士の中間子のキャッチボール」により働く力は、
「
強い力の種類のひとつ」となっており、他と区別するために、「
核力」と別名で呼ばれている。
ご注意を……。
(補足2)
ちなみに、この中間子理論……。実は、湯川さん以外の人も考えていた。
シュティケルベルクという学生である。彼は湯川さんと、まったく同じ理論を考えた。
でも、残念なことに、
ニュートリノの存在を予言したパウリによって、
「
いくらつじつまが合うからって、そんなあるかどうかもわからない未知の粒子を勝手に仮定するんじゃねえよ!」
と叱られてしまい、論文は却下されたそうな。
(パウリは、傲慢な性格で、他人に厳しいことで有名)
湯川さんは、引っ込み思案な性格で、中間子理論が出来ても、全然論文を書こうとしなかった。八木教授が、なだめたりすかしたりして、やっと書かせたのである。だから、
パウリが却下しなければ、ノーベル賞は、シュティケルベルクが受賞していたことだろう。