ニュートリノ
中性子は、ほおっておくと崩壊して、電子と陽子に分離してしまう。
これを「
ベータ崩壊」と言う。
この「ベータ崩壊」について研究をすすめてみると、とんでもない問題が持ち上がってきた。
その問題とは、「
エネルギー保存の法則」「
運動量保存の法則」が成り立たないということだ。
簡単なところで、「運動量保存の法則が成り立たない」ってことについて述べよう。
たとえば。
静止しているビリヤードのボールを「チョイヤー」と、空手チョップで壊して、2つに割ってみよう。仮に、1個の破片が、「東」 に飛んでいったならば……、もう1個の破片は、必ず 「西」 に飛んでいく。これは、運動量が保存されるためであり、2個の破片は、必然的に
「正反対の方向」に飛んでいくことになる。
が、ベータ崩壊はそうはなっていなかった。
もう1個が、ちょっと斜めに飛んでいくのだ。
おっとっと。これでは、物理学の基本中の基本である「
運動量保存の法則」が満たされないではないか?
これについて、物理学の大御所である
ボーアが、
「
原子核の中のミクロの世界では、もはやエネルギー保存則や運動量保存則が成り立たない」
ということまで提唱しだしたため、科学界は大混乱に陥る。
しかし、
パウリという毒舌家の科学者が、ボーアに待ったをかける。
「
そんなわけあるか!エネルギー保存の法則が成り立たないなんてことが、あるわけないだろ!」
まぁ、それはそれで理性的な判断だ。保存則が成り立たないとは、「1 − 1 = 0.5」と言っているようなものだからだ。つまり、エネルギーや運動量については、もう足し算や引き算が成り立たないと言っていることになる。
じゃあ、どうすれば良いか?
簡単だ。
つじつまが合うように、しちゃえばいい。つまり、ベータ崩壊するときに、エネルギーや運動量の帳尻が合うように、未知の「?粒子」が飛び出していると考えればいいのだ。
「
おそらく、この未知の粒子は、電気的に中性で、質量もほぼゼロに近いものであるため観測される見込みは薄い……本当にあるかどうかもわからない……。だけども!とにかく、こういう粒子が飛び出していることにすれば、エネルギー保存則は成り立つ! ジャンジャン!」
このようにして、パウリは、「電気的に中性で、ものすごく小さい未知の粒子」として、「
ニュートリノ」という粒子の存在を予言したのである。(1930年 別名パウリの救済策)
(補足)
ちなみに、ベータ崩壊のときに発生するニュートリノは、実は、ニュートリノの反物質であることが後に判明し、最終的には、「
反ニュートリノ」と呼ばれることになる。