科学哲学史(6) 反証主義の問題

人間は、観察によって、科学理論が正しいことを証明することは不可能だけど、
 間違っているぞと証明するのは簡単にできるんだよね〜」
という反証主義の思想に基づき、やっと人類は「反証可能性」という
「科学とウソ科学を判別するための妥協案」を手に入れることができた

……かにみえた。

しばらくすると、この反証主義にも問題があることがわかってきたのである。

たとえば、
「すべてのカラスは黒い」という理論は、
「白いカラス」をたった一回観察するだけで、
間違っていると反証することができるでしょ!
というのが反証主義の主張であったわけだが、

実際のところ、科学理論は、そんな単純なものではない。
「科学理論とは、たくさんの前提条件のもとで、成り立っている」わけだから、
理論と異なる結果が観察されたからといって、単純に反証などできないのである。

これについて、例をあげて、わかりやすく説明してみよう。
たとえばだ。
ボクが、ビリヤード台とボールを用意して、
「ボールを使った運動の実験」をやったとする。
当然、ボールは、現代科学の理論に基づいて、その法則どおりに運動するはずだ。
そうに決まっている!ボールが、科学理論の法則以外の動きをするはずはない!

だが、ここで、もし、ボクが
「触れもしないのに、ボールが勝手に坂道を駆け上がった」という現代科学理論と
まったく反する結果を観察したとしよう。

ボールが、現代科学理論と異なる動きをしたのだから、
これは明らかな「現代科学理論についての反証」であり、
「現代科学理論が間違っている」と確実に言えるはずである。
(反証は確実なことなのだから)

どうやら、世界中の科学の教科書は、
ボクの実験によって書き換わることになりそうだ。
「現代科学の○○理論は間違っていた!!
 ノーベル賞はワシのもんじゃ〜〜〜!!」
と嬉々として叫んだとする。

はたして、科学界、ガッカイのみなさんは、ボクの報告を受けいれてくれるだろうか?
そんなわけはない!!
きっと彼らは、こう述べるだけだろう。
「それは、実験における前提条件のどれかが満たされていなかっただけでしょ」と。

実は、どんな科学理論でも(それが単純なボールの運動の理論でも)、
たくさんの前提条件の上で成り立っている。
たとえば、
前提A 「ボールがベタベタしていない」とか、
前提B 「実験室そのものが傾いていない」
などなど。
科学の実験には、前提条件が数え切れないくらい沢山あるのだ。
だから、仮に、科学理論と異なる実験結果が見つかったからといって、
その科学理論が間違っているとはかぎらない。
前提条件のうち、どれかが満たされていないだけかもしれないのだ。
(ボールの実験の場合、実験室が傾いていれば、前提が満たされていないので、
 ボールが坂道を駆け上がっても、既存の理論が間違っていたとは言えないのだ)

そして、このことの最大の問題は、
「実験を行って、理論と異なる結果が得られたからといって、
 理論が間違っているのか?
 たくさんある前提条件のうち、どれかが満たされていないだけなのか?
 まったく区別がつかない」
ということだ。
だから、理論と異なった結果が観察されたとしても、
「前提条件が間違っていたんじゃないの〜?」と言い張れば、
いくらでも言い訳ができてしまい、そもそも反証なんてできないのだ。

というわけで、
「観察によって、ある理論を間違っているということは、
 誰にも有無を言わさず確実にできる」
という反証主義の主張は、ウソっぱちなのである。
人類にとって、反証すら確かな検証方法ではない
われわれは、間違っている理論を間違っているということすら確実にはできないのだ。

(補足)
科学の実験は、いつ誰がやっても、同じ結果になると思いがちだが、
実際のところ、科学の実験はやるたびに違う結果になることが多い。
(大学や研究所で、科学の実験をしたことがある人ならわかると思う)

特に、学生は、実験の前提条件や手順を間違ってしまい、
失敗してしまうなんてことがよくある。
そして、それに気付かずに、「え〜?え〜?」と悩みだし、実験はなかなか進まず、
果ては、既存の理論の方を疑い始めるなんてこともよくある。

だから、教授たちは、学生の実験をそれほど信用していない。
もし、学生が、実験を行って大発見をしても、既存の理論と合っていないならば、
「おまえのやり方がわるいんだ!」という感じで取り合ってもくれないのだ。
(大学や研究所で、科学の実験をしたことがある人ならわかると思う)

つまるところ、既存の科学理論の誤りを指摘する人は、
厳しい非難と疑惑の目に耐える必要があり、
反証とはそんなに容易いものではないのだ。

(後日談)
さて。
反証主義の問題を把握したボクは、
きちんと前提条件を確認して、ボールの運動理論の反証となる実験結果を
科学界に提示してみた。
しかし、それでもやっぱり、科学界は、ボクの実験結果を受け入れてくれなかった。

「だ ・ か ・ ら〜!ちゃんと、すべての前提条件を確認しましたってば!」
「いやいや、残念ながら、ひとつだけ満たされていない前提条件が残っているよ」
「え?それはなに?」
「それは、この実験を行った人が正常(まとも)である、という前提だよ!」

「○○理論が間違っていた!」というサイトはネット上にはたくさんあるが、
どんな実験をしようが、どうしたって、認められることはない。

だって、上記の前提条件をクリアしていないと言われるだけだから。

「あっはっは、こりゃあ、まいったね〜〜〜!