思考実験(1) 双子のクローン赤ちゃん
人間の脳は、ただの機械にすぎないのだろうか?
10分後、自分が何をするか、それはもう決定されていることなのだろうか?
人間は、自由意志を持っていないのだろうか?
この疑問を解くため、こんな
思考実験がよく引き合いにだされる。
―――――
クローンの双子の赤ちゃんを作り出し、それぞれの赤ちゃんをまったく同じ環境の部屋にいれて、まったく同じ刺激を与えたとする。
すると、どうなるだろうか?
もし、脳が、単なる機械にすぎないのだとしたら、物質構造として、まったく同じ脳を持つ2人の赤ちゃんは、寸分たがわず、まったく同じ行動をするに違いない。
しかし、同じ脳のはずなのに、もし違う行動をしたとすれば、2人の赤ちゃんには、それぞれ違う「意志、ココロ」があるということの証明になるはずだ。
―――――
という思考実験である。
この実験を実際にやってみると、どうなるだろうか?
答えは簡単である。
「
人間は、完全に同じ環境を作り出すことはできない。だから、実験できません」
以上だ。
いや、ほんとに終了。これ以上 話す余地もなく、これでオシマイ。
そもそも、クローンだろうが、どんな技術だろうが、赤ちゃんの「脳」や「部屋の空気」を原子レベルでまったく同じ状態にすることは不可能だ。仮に、強引にやったとしても、
カオス理論にしたがえば、「
2人の赤ちゃんの間で、わずかでも環境(の初期状態)が違えば、まったく異なる結果になってしまう」わけだから、2人の赤ちゃんに行動の違いが見られたとしても、決して「
自由意志」の存在を証明したことにはならない。
結局、このような思考実験についていえる事は、
「
実験できないのだから、その実験がどうなるか……それについて、何も言うことはできません!」
ということだけである。
(補足)
もしかしたら、この思考実験について、
「
いや、だから、仮に、そういう状況が作り出せたと仮定したとしての話だよ!」
と突っ張る人がいるかもしれない。
そして、
「
人間の脳は、物質で出来ているのだから、当然、物理法則に従って動いているだろ。だから、物質的に完全に同じ脳を再現してやれば、まったく同じ行動をするに決まっているじゃないか!?それとも、人間の脳が、物理法則に反して、動くとでもいうのかよ!? 」
と突っ張るかもしれない。
そう思う人は、
2重スリット実験を思い出して欲しい。
2つの穴が開いた壁にむかって、原子を一粒飛ばす実験だ。古典的な科学理論を使えば、こんなものは、実験するまでもなく、結果なんて予測できるものだ。
だが、現実は違った。実際にやってみたら、既存の科学理論をまっこうから否定する結果になったのだ。
こういうこともありうる。
だから、何事も実験してみないとわからない。
ましてや、実験できないものについて、どんな理論も適用することはできないし、『
現実に実行できない思考実験』を仮定して、「
こうなるはずでしょ!」と主張することなんかできないのだ。
(補足2)
では、思考実験は空しくて、何の価値もないのだろうか?
いや、そんなことはない。
これらの思考実験は、
「
その実験の結果を 自分が どう予測するか」によって、「
自分が どんな公理(前提、思い込み)を持っているか」を知ることができる。