パイロット解釈

今まで、量子力学(コペンハーゲン解釈)の説明として、

1個の粒子が、観測されていないとき、波のような状態になって、スリットA、スリットBを同時に通り抜ける

という、日常的な感性からすれば、まったく常識ハズレなことを述べてきた。

だが、「その常識的な世界観では説明のつかない実験結果2重スリット実験)」が現実に存在するのだ。だから、その「ヘンテコな実験結果」と、ツジツマを合わせるために、「ヘンテコな新しい考え方」を作り出すしかなかったのは、仕方がないだろう。

だけど、それにしても……

と思うかもしれない。

もっとマシな考えはなかったの?
 なんかこう〜、もっと日常的で合理的で、
 ツジツマの合う考えって、
 本当に、ほかになかったの?


と疑問に思うかもしれない。

実を言えば、ある!

それがボームの提唱した「パイロット解釈」だ!

●パイロット解釈とは

まず、2重スリット実験を思い出してほしい。

そもそも、この実験がスコシフシギだったのは、

粒子(電子)を1個だけ飛ばしたにもかかわらず、その粒子が観測される場所の確率が、「波が2つのスリットを同時に通ったときにできる形(干渉縞)」と同じだったこと

である。

それで、そのツジツマ合わせとして、「観測すると1個の粒子であるはずの電子」が、「観測していないときは、波のような存在になっている」というヘンテコな話が出てきてしまったのだ。

(もちろん、そのヘンテコな話が、正しいのかどうかなんてことは、確かめようがないが、ともかくそう考えれば、ツジツマは合うのである)


だが、しかし。ツジツマが合えば良いってだけなら、別の考え方だってできるだろう。

たとえば、粒子が観測される場所が、波の形になっているのだから、下図のように「波が出てから、粒子が飛ぶ」と考えるのはどうだろうか?

1)ミクロの粒子(電子)が、移動するまえに「波」を出す。


2)粒子は、その「波」に乗って、移動する。


ここで、この「波」は、「パイロットのように粒子を導く波」ということから、「パイロット波」とか「ガイドウェーブ」と名づけられ、このツジツマ合わせの説明を「パイロット解釈」と呼ぶ。

実は、こんなふうに考えても、2重スリット実験は説明できてしまうのだ。

このパイロット解釈を、もう少しイメージしやすくするために、ちょっと こんなふうに考えてみよう。

まず、ゴルフ場のグリーンを思いうかべて欲しい。
平らなグリーン上で、ゴルフボールを打てば、ボールはまっすぐ進み、だいたい同じような位置にあつまるだろう。

だが、ボールを打つ前に、グリーンがウネウネと波うっていたら、どうなるか?
当然、ボールは、まっすぐは進まず、その波の形に影響されて、あっちの谷に転がっていったり、むこうの谷に転がっていったりする。

ここで、ボールを打つときには、毎回、微妙に力加減が違うのだから、毎回、ボールは違うところに転がっていき、事前にどこに転がっていくのかを正確に予測するのは不可能である。
カオス理論参照

だが、それでも、ボールが転がって行きやすい場所というのはある。
たとえば、谷の深いところほど、ボールは転がっていきやすいだろうから、谷が深ければ深いところほど、(波が大きいところほど)そこでボールが見つかりやすい、という確率的な予測ぐらいはできるはずだ。

ここで、もし!
このグリーンのウネウネの波が、干渉縞の形になっていて、谷がシマ模様になっていたとしたら……!
ボールは、谷のあるところに集まりやすいのだから、ボールを何個も打ち続ければ、ボールが発見される場所の分布が、干渉縞にしたがったシマ模様と同じになるのは当然のことと言えるだろう。

と、こんなふうに、
空間を歪めるような未知の波が、先行して進み、それが粒子の動きに影響を与えている」と仮定すれば、2重スリット実験の不思議な現象は、案外、合理的に説明できてしまうのだ。

しかも、素晴らしいことに、この説明は、僕たちの日常的な世界観と非常に一致している!

だって、1個のボール(電子)は、観測する/しないに関係なく、いつも1個のボールであり、たんに移動するときに、ウネウネと動く波に影響されて、あっちで観測されたり、こっちで観測されたりするだけなのだ。それは、とっても、イメージしやすい。

少なくとも、「観測していないときは、電子が多重に存在している」とか「1個の粒子が、波として、2つのスリットを同時に通った」というよりは、とっても健全な考えのように思える。

実際、このパイロット解釈は、発表当時、とても注目された。科学者たちは、拍手喝采で、パイロット解釈を、迎え入れようとしたのだ。

やったーー!!これでやっと、俺たちは、量子力学というわけのわからん、世界観から抜け出せるかもしれんぞ!やっぱり、ボールはボールなんだよ。ボールがコロコロ転がるような単純な世界観が一番だねぇ!

しかし、このパイロット解釈には、致命的な問題あり、それによって、一気に捨てられることになる。

祝!書籍化!
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『てつがくフレンズ』第86話

⇒(続き) 『てつがくフレンズ』