ヘラクレイトス(1) B.C.500年頃

いきなり。突然。なんの脈絡もなく。

自分が世界に存在していることに気がつき、わけもわからず、生き続ける人間。

「この世界……いったい、なんなの?」
 
 驚き、疑問、猜疑、不安……。

この不安定な人間の精神に答えを与えてきたのが、「神話」であり「宗教」である。

だけれども、世界中の「神話」を集めてみたら、
「みんな言ってること違うじゃん!嘘つき、ウソツキ!」
ということに人間は気がついてしまった。
なので、しかたなく、自分の頭で考えて、悩み始めたのが、哲学の始まりである。

とはいうものの…。
人類史上、最初の哲学なのだから、歴史もなんにもありゃしない。
何をどうやって考えるべきか…それすらわからない。

じゃあ、最初の哲学者たちは、どうやって物を考え始めたのか……。
ちょっと、当時の人の気持ちになってみよう。

とりあえず、見渡せば、空があって、山があって、森があって、動物がいて……、
とにかく、「果てしなく自然ばっかり」である。
なんで、そんなものがあるのか、さっぱりわからない。

でも、なんだかわからないと言いつつも、よくよく観察すると、
何かしらの規則があるように思える。
太陽が昇ればあったかくなるし、雲が増えれば雨が降るし、一定期間で作物は育つ。

「作物がなぜ育つのか?」なんてことも、さっぱりわからない。
一応、「作物の神様がやっているから」と「神話」では言っているが、
どうやら「水」を与えなければ作物は枯れてしまうようだ。
なんで、作物に「水」をやらなきゃだめなのか・・・なんてことは知らないが、
とにかく、やらないと枯れてしまう・・・
枯れたら、食いっぱぐれて死んでしまう。

ようするに、「作物は水で成り立っている」という自然の知識ひとつとってみても、
その知識のある/なしが、そのまま生死につながってしまう。

当時の人にとって、「自然」は脅威的な存在であり、死活問題だったのだ。

だから、当時の人たちの一番の関心事は「自然」であると言えた。

そんなわけで、最初の哲学者たちは、まず自然を観察するところから始めた。
ようは、
「自然って、一体、どんな仕組みで成り立っているの?」
という問いかけをしたわけだ。
こういう哲学者のことを自然哲学者と呼ぶ。

ともかく、
歴史上、一番初めの哲学者たちは、まず、身の回りの自然をよ〜く観察して、
「万物(自然)の根源」を見つけ出そうとした。
そして、色々な人がこの問題に挑み、
「水だ」「空気だ」「数だ」と言ってきたわけだが、

その中で、「火だ」と言ったのが、
ヘラクレイトスという哲学者である。