ハードプロブレム
脳の特定部位の活動を停止させると、その部位に対応する『
特定の色(クオリア)』は見えなくなる。
逆に、脳の特定部位の活動を復活させると、その部位に対応する『
特定の色(クオリア)』は再び見えるようになる。
もちろん、なぜ、脳という機械が動作すると、『クオリア』が発生するのか、その仕組み・原理は、まったくわかっていないが、少なくとも、これらの実験結果から、
ワレワレの意識の上に起きている『クオリア』が、「脳という機械」と深い因果関係にある、
という結論を出しても良いだろう。
ところで、そもそも、脳とは、「原子・分子」などの物質の集まりにすぎないし、脳内で起きている「情報伝達の仕組み」というのは、単に、
「
ある脳細胞が、特定の化学物質を分泌して、隣の脳細胞に影響を与える」
ということを延々と繰り返しているだけにすぎないわけだが、
実際に、脳を構成している「
脳細胞」を1個取り出して、どんなに観察したとしても、そこには、
「
一定の規則にしたがって、機械的に作業している姿」
しか見つからないわけで、そういう
機械的な物質(脳細胞)が、なぜ、「イシキ」「主観的体験」「クオリア」を生み出しているのか、合理的な説明はまったくできない。
また、この脳細胞が何億何兆と集まったとしても同様で、こういった
機械的な物質が集まって、どんなに複雑化したからって、そこに「イシキ」「主観的体験」「クオリア」が発生することの合理的な説明には決してなりえない。
この話を理解しやすくするため、
「
ものすごい大量の歯車が集まってできた、人間そっくりに振舞う、精巧なブリキのロボット」
を想像してみてほしい。
このロボットは、さも、人間らしく振舞うが、中身としては、単純な
歯車の集まりにすぎない。
このときワレワレは、
「
大量の歯車が、複雑に組み合わさったから、人間らしい動きが出来る」
という理屈について、理解も納得もできるが、
「
大量の歯車が、複雑に組み合わさったから、イシキやクオリアが発生した」
という理屈について、まったく理解も納得もできない。
一般的な常識にしたがえば、
「
はぁ!?歯車なんか、いくら集まったって、そこから、イシキとか、クオリアとかが出てくるわけないでしょ!?」
と考える方が自然だろう。
つまり、ようするに、ワレワレは、
「
(機械的な)物質が集まった結果として、イシキやクオリアが発生する」
という理屈を、合理的に理解できる
思考回路を持っていないのである。
このように、「
物質から、どうやってイシキやクオリアが発生したのか」を合理的に説明できないという問題は、
「
ハードプロブレム(難しい問題)」
と呼ばれ、科学の未解決問題となっている。
このハードプロブレムについて、科学者たちは、そもそも、なにをどう考えればいいのかすらわからない、
とサジを投げている状況であり、科学が、この問題を解決できる見込みは、今のところなさそうである。(もしかしたら、永久に)
(補足)
だが、実を言えば、
そもそも、科学は、『なぜ、脳細胞が集まると、 イシキやクオリアが発生するか』について合理的な理由を見出す必要なんかない!
という考え方も存在する。
たとえば、「
質量を持つ物質が2つあるとき、両者の間に、引力が生じる」という科学の理論だって、「
Aという物理条件がそろえば、Bという現象が生じる」ということを説明しているだけにすぎない。
実際のところ、「
質量のある2つの物質の間に、なぜ、引力なんて現象が起きるの?」と合理的な理由を問われても、「
うるさいな!理由なんか知るか!とにかく、宇宙はそういうふうにできてるの!」と主張するしかなく、実際、科学は、
そういうふうに説明することしかできない。
(もちろん、重力について、「
重力子を使って説明しようとする仮説」があるが、仮に、この仮説が証明されても同じことである。それが証明されたところで、「
じゃあ、なぜ、重力子があると、そういう現象が起きるの?」とさらに問いかけができるわけだから、やっぱり合理的な理由の説明にはなっていないのだ。結局のところ、科学は、宇宙に起きるすべての現象について、究極的には「
宇宙はこうなっています」としか言えず、合理的な説明は本質的にできないのである)
結局、科学というのは、
「
Aという物理条件がそろえば、Bという現象が生じる」
「
物理条件A → 現象B」
という「
法則があるよ」と示しているだけで、その法則そのものに、そもそも、合理的な説明なんかできないし、する必要もないのだ。
だから、科学が、クオリアについて、同じことを述べたっていいのである。
「
うるさいな!理由なんか知るか!とにかく、宇宙はそういうふうにできてるの!脳細胞がいっぱい集まると、クオリアが発生するんだよ!」
と主張したって、別にいいのだ。それで、ハードプロブレム(難しい問題)は、完全解決である。
実際、量子力学は、「
2重スリット実験における電子の振る舞い」を合理的に説明していないし、もしかしたら合理的に説明できる日は永遠にやってこないかもしれないが、特に問題なく、科学理論として取り扱うことに成功している。
結論として、科学が、「
なぜ、脳細胞が集まるとクオリアが発生するのか?」という「
ハードプロブレム」を合理的に説明できなかったとしても、他の科学理論と同様に「
とにかく、そういうものなんだよ!」と
割り切ってしまえば、ぜんぜん問題ないのである。
(補足2)
ただし、逆に、そこを割り切ってしまうと、
「
脳細胞が集まると、クオリアが発生します。なぜかわかりませんが、とにかく、そういうものなんです」という程度のことしか言えず、やっぱり、科学によるクオリアの『納得』のいく説明は、絶望的なのかもしれない。
――ワレワレが、クオリアを『理解』できる日は来るのだろうか