ヘラクレイトス(2) B.C.500年頃


B.C.600年、タレスが「万物の根源は水」と述べることで始まった哲学史。

それから、100年もの間、色々な哲学者が、
「万物の根源って何なんだぁ〜?」と
問いかけ続けてきた。

そして、B.C.500年。
ついに、哲学史において、偉大な巨人が現れる。

ヘラクレイトスである。

「万物は流れ去る」
とヘラクレイトスは高らかに宣言した。

彼の洞察は、本質をついている。

国がある、人間がある、木がある、石がある……
が、そんなものは、何百年も経てば、消え去ってしまう。

「すべては変化し続ける。
 永遠に不変の存在なんてありはしない」

諸行無常…。

それこそが、「万物の絶対の法則」であると、
ヘラクレイトスは考えたのだ。

ヘラクレイトスによれば、
「人間が、見ているものは、変化しているうちの一瞬にすぎない」のに、
「人間は、その一瞬を固定的で不変的なものと見なしている」として、
人間は愚かだと厳しく指摘する。

そして、ヘラクレイトスはさらに深く考える。

「上り坂も下り坂も、1本の同じ道である」
「生と死は同じである」

そもそも、それまでの世界観では、「光」と「闇」は別々の存在だった。
「光」という存在……、「闇」という存在……。
そして、相反する「光」と「闇」の戦い……。

だが、ヘラクレイトスの洞察によって、
初めて「光と闇」は同じ現象だと見抜かれる。

「光が減れば……闇になる。闇とは光が少ない状態にすぎない。
 なにも、『闇』が『光』を押しのけて、
 そこに『闇』を作り出しているわけではないのだ。
 だから、『光と対立する闇』 など、本当は存在しないのである」

そう。光と闇とは、ひとつの現象が変化したある状態にすぎない。
それらは、もともとひとつなのである。
区別するのは、人間の勝手な解釈なのだ。

だから、「昼と夜」「生と死」「神と悪魔」「愛と憎しみ」「善と悪」
そういったものも、別々の存在ではなく、同じものが変化した姿だと
ヘラクレイトスは考えた。
(だから、愛のみを選んで、憎しみを捨てようとか……、
 善だ悪だと大騒ぎするとか……、そういう人間たちをヘラクレイトスは、
 愚か者として見下していた。)

では、そういう変化を起こしているものは、一体なんだろうか?

ヘラクレイトスは、
「変化を引き起こしているのは
 『ロゴス(摂理、法則)』である」
と述べている。

ヘラクレイトスの洞察は、どれも重要だが、
哲学史において、もっとも重要なのは、ロゴス(法則)という概念を打ち出し、
「神による世界説明を完全に捨て去った」ということである。

彼は述べる。

「世界は神が創ったものでもなければ、誰が創ったものでもない。
 世界とは、ロゴス(法則)によって決まったぶんだけ燃え……
 ロゴス(法則)によって決まったぶんだけ消える……
 永遠に変化しつづける『生きる火』なのだ」

ところで、このヘラクレイトス。
実は、王族の出身で、支配階級の人だったらしい。
でも、民衆がバカで嫌いだったので、兄弟に地位を譲ったという逸話がある。
真偽のほどはわからない……が、とにかく、彼が人間嫌いで、
山で隠者のように暮らしていたことは確かだ。

そして、彼に言わせれば、他の哲学者の考えなんて、
「幼稚で子供騙し」にすぎなかったそうだ。
とにかく、彼は、徹底的に他人をバカにして、見下していた。

だからこそ、当時の世界観を打ち砕くような
斬新な哲学が生まれたのかもしれない。

ちなみに、彼は、病気になっても、医者までバカにして追い払っていたので、
最後は、ウンコまみれという惨めな死体で、発見される。
どんな深い哲学を持っていようが、やっぱ人間、独りでは生きてけないのね、
という話だ。

ともかく。
この偉大なる ひねくれモノの洞察は、
後世の哲学者たちに、大きな影響を与えた。