シュレディンガーの猫(4) 抽象的自我

結局、物理学的にいえば、どんな実験装置を想定したって、つまるところ、その実験装置は、「ミクロの物質」とその間に働く「力(相互作用)」で構成されているにすぎない。

で、「ミクロの物質」の間に「力の相互作用」が発生しても、物質の状態は決まらないのだから、なにがあろうが、絶対に「物質の状態は決まらない」ことになる。

しかしだ!

実際に、『人間』が箱をあけて、中をみたら、「生きている猫」か「死んでいる猫」かのどちらかであり、あきらかに、猫の状態は決まっている。

ここから、「シュレディンガーの猫」の思考実験の、本当の問題が浮き彫りになる。

その問題とは、

「ふ〜ん、理屈として、ミクロの物質は、なにをしようと可能性のまんま、だということはわかったよ。
しかも、その複数の可能性が、干渉しあうんだから、それらが、ちゃんと実在しているってこともわかったよ。
でもさ、実際には、『人間』が観測すると、生きている猫か死んでいる猫のどちらかを見るわけで、実際には、一方の可能性だけが起きているじゃないか!
なにそれ!?『理屈』と『実際の現実』で、矛盾しているじゃないか!

ということだ。

何をやっても、「ミクロの物質の状態」が決まらないのであれば、「ミクロの物質のカタマリである猫の状態」だって、決まらない。
それなのに、人間が猫をみると、猫の状態は決まっている。

これをどのように考えれば良いのか。

この問題は、多くの科学者を悩ませた。


そんなとき、コンピュータの発明に貢献し、「コンピュータの父」と呼ばれるフォン・ノイマン博士が、「シュレーディンガー方程式という数式」をどんなにいじくりまわそうと、物質の状態が確定するような答えを導き出せないことを数学的に厳密に証明した。

そう。結局、量子力学の数式のなかでも、物質の状態がひとつに決まることはなく、やっぱり可能性のまんまだということが数学的にも証明されたのである。

そこで、数学者のノイマン博士は考えた。

はっ!わかったぞ!

「どうしたんだ、ノイマン」

謎がとけたんだよ。
いいか、まず、量子力学では、猫は「生きている/死んでいる」という状態が重なり合って、多重に存在している、と述べている。
だが、その状態を確定させる要因が、量子力学、つまり物理学のどこにもないんだ。

「ああ、そうだったな」

「でも、それなのに、『人間』が観測したときにだけ、猫の状態は決まっているんだ。いいか!『人間』が観測したときだけだ!

ま、まさか、ノイマン!

そう。人間の『ココロ』が、『多重に存在していた猫の状態』を決めたんだ!















上記の話は、笑い話ではない。
ノイマン博士は、「ココロ」や「イシキ」といった現代物理学では語れないナニカが、可能性の決定を引き起こしている、と本気で主張したのだ。

もちろん、この主張は、多くの科学者や常識人から、たくさんの批判を受けた。

しかしだ!

物理学で想定している世界観(世界は、「ミクロの物質」と「力」で構成されている)では、説明不可能なことが現実に起きているのだから、これは、もう、物理学の世界では想定してしない「未知のナニカ」を持ってくる以外にはありえない。

そのナニカが、ノイマン博士の場合、「ココロ」とか「イシキ」とかだったりしただけである。(ちなみに、ノイマンは、それを「抽象的自我」と呼んだ)

どちらにしろ、問題を解決するためには、物理学では想定していない「未知のナニカ」を持ってこないといけないわけだから、ノイマン博士の発想を、単純に笑い飛ばすことはできない。

最後に、もう一度、要点をまとめよう。

・量子力学が正しいのであれば、ミクロの物質は、ずっ〜と「可能性のまんま」であり、位置とかの状態が決まることはない。

・でも、事実として、『人間(この私)』は、どの物質を観測しても、「位置Aにある」とか「位置Bにある」とか、ひとつの可能性だけを認識している。


というわけで、この矛盾のツジツマを合わせるために、

人間のココロは、量子力学(物理学)を越えた特別な存在であり、人間が観測すると、物質の状態は決まるのである!

と考えたのである。

それは、あまりに『人間』を特別視しすぎた突飛な主張のように思えるが、この考え方だって十分にツジツマがあうのだ。

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