シュレディンガーの猫(2) よくある疑問A
「
シュレディンガーの猫」という思考実験。
一体、何が問題なのだろうか?
もう一度整理してみよう。
まず、そもそも、この「
シュレディンガーの猫」の思考実験では、
・電子が位置Aにあるとき → 毒ガスでる → 猫は死ぬ。
・電子が位置Bにあるとき → 毒ガスでない → 猫は生きる。
というように、「
電子の位置で、猫の生死が決まる」ように関連付けられた装置を想定している。
ここで、量子力学の
コペンハーゲン解釈では、
観測していない電子は、『位置Aにあるかも』 『位置Bにあるかも』 といった複数の可能性として、同時に存在している
と考えているのだから、「
その電子の位置によって、生死が関連付けられている猫」だって、当然、
『生きているかも』 『死んでいるかも』 といった複数の状態として、同時に存在している
ということになるはずだ。(だって、電子の状態で、猫の状態が決まるのだから)
しかしながら、
「生きている猫」 と 「死んでいる猫」が同時に存在するなんて、日常的な感覚としては、「
ありえない」ように思える……。
結局、目に見えないミクロの電子が、「複数の状態で、同時に存在している!」と言われても、「へぇ〜、そんなもんなんだ〜」ぐらいの印象しか持たない人だって、電子が猫に置き換われば、「ありえないよ!こんなの明らかにおかしい!」
と思うわけで、
シュレディンガーの狙いもそこにあった。
ようするに、シュレディンガーは、
「
量子力学というミクロの物質についての不可思議な理論が、猫とかのマクロな物質にまで影響するような実験装置」
を考えることで、量子力学が、いかにメチャクチャなものであるかを示したかったのだ。
つまるところ、結論として、量子力学の
コペンハーゲン解釈が正しいのだとしたら……、
観察する前の1匹の猫が、『生きている』 『死んでいる』 という複数の状態として、同時に存在している
という、あまりに常識ハズレなことを受け入れなくてはならない……。
さてさて。
シュレディンガーの言いたいことは理解できたと思う。
だが、その前に、量子力学に慣れ親しんでいない人からすればそもそも、
なんでそんな結論になってしまうのか、疑問に思うかもしれない。
というのは、この「
シュレディンガーの猫」の思考実験は、もっと簡単に考えれば、何の不思議もなく説明できそうな気がするからだ。
それを踏まえて、この思考実験を再度確認してみよう。
●よくある疑問A
「
電子のようなミクロの物質は、すっごい小さいから、どこで観測されるのか、確率的にしかわからないよ、ってだけの話で、電子が多重に存在しているという考え方を持ち出す必要なんて、ないんじゃないの?」
不確定性原理の項目でも述べたように、電子のようなミクロの物質は、観測するという行為によって、状態を変えられてしまうため、もともとの正確な状態を知ることができない。
したがって、「
確率的にしか電子の状態を観測できない」というのは、単純に「
観測のやり方・精度の問題」なのだから、「
電子の位置は、観測する前でも、『ホントウは』決まっている」という考え方ができる。
ここから、
量子力学のいう「確率的にしかわからない」ってのは、単純にその程度の話じゃないの?
なんで、わざわざ、「確率的な状態で多重に存在している」とか、わけのわからないことを言い出すの?
という素朴な感想を持つ人もいるだろう。
たしかに
「
電子は小さいから、確率的にしかその位置がわからないだけであって、電子の位置は実際には決まっている」
のであれば、当然、猫の生死だってひとつに決まるわけで、猫の生死が多重に存在するなんて、ヘンテコなことを言う必要はまったくない。
もちろん、この素朴な考えは、とても妥当でマトモな考えではある。
だが、そうすると、今度は、「
2重スリット実験」などの量子力学特有の実験結果について、何も説明ができなくなってしまう。
だって、そもそも、
「
電子が複数の状態で、多重に存在している」
なんてヘンテコな理論を持ち出したのは、
「
そう考えないかぎり説明できないような実験結果」
があったからである。
(科学者だって、好きこのんで、こんなヘンテコな理論を出したわけじゃない)
2重スリット実験を説明するためには、どうしても、
観察する前の電子が、『スリットAを通り抜けた状態』と『スリットBを通り抜けた状態』の2つとして、同時に存在している
という
新しい考え方が必要だったのだ。
結局のところ、「
よくある疑問A」に基づいて、
「
電子の位置が確率的にしか予測できないのは、あくまで観測精度の問題であって、ホントウは、電子の位置はひとつの場所に決まっている!だから、電子も猫も多重化しない!」
と素朴にシンプルに、「
シュレディンガーの猫」を説明してしまっては、
「
粒子は、観測していないときでも、いつも位置が決まっている!」という
古典的な科学理論に逆戻りするだけであり、
「
じゃあ、どうやって、2重スリット実験を説明するんだよ!」という最初の問題に戻ってしまうことになる。
結局、「
2重スリット実験という現実(実験結果)」に対して、
古典的な科学理論(粒子は、いつもカチコチ理論)では説明がつかなかったから、しかたなくヘンテコな量子力学の理論がでてきたわけで、それなのに、
古典的な科学理論を持ち出して「シュレディンガーの猫」を説明しようとするなんてことは、そもそも
ナンセンスなのである。
以上までが、「
よくある疑問A」に対する回答である。
しかし、本当に難しい問題は、「
よくある疑問B」の方である。