科学哲学史(1) 帰納主義 1600年頃

帰納主義とは、1600年頃、
イギリスのベーコンによって提唱された「科学についての思想」である。

そもそも、帰納とは、
「個々の経験的事実の集まりから、
 そこに共通する性質や関係を取り出し、
 一般的な法則を導き出す」
ということである。

たとえば、世界中を駆けずり回って、
「カラスは何色だったか?」ということを聞きまわる。
そして、「カラスは黒い」という目撃データがたくさん集まれば、

「カラス→黒い鳥である」という法則が導き出せる。

このように、たくさんの観測データから、
一般的な法則を導くやり方帰納法という。

そして、帰納法により導かれた「カラス→黒い鳥である」という法則は、
「カラスが黒い」という観測データが多ければ多いほど、みんなに信頼され、
より正当化されるのである。

さて。
つまるところ、ベーコンは、
「この帰納法を用いて、科学は作られるべきだ」と主張したわけだ。
もっと簡単に言うと、
「科学は、観測や実験などの事実を元にして、作られるべきだ」
と言ったわけだ。

もしかしたら「ナニを当たり前のことを言っているのだ!」と思うかもしれない。

だが、実を言えば、
もともと、ベーコン以前の科学は、伝統的権威的な偏見に満ち溢れていた。
権威的な学者が根拠もなく言ったことや、昔から伝統的に言われていることを
鵜呑みにするという風潮が強くあった。
たとえば、アリストテレスという紀元前の偉大な学者の
「重いものは、軽いものより速く落ちる」という根拠のない偏見を
2000年近くも、科学者はずっと信じ込んできたのだ。

ベーコンは、そういう偏見に満ちた伝統的な知識を
科学から一掃しようと努めたのである。

科学に、権威など必要ない。
科学は、「観察という確かな事実」を元にして、
「観測事実と矛盾しないように構築されていく」べきなのだ。

このベーコンの「帰納主義」は、
当時、最も説得力を持った革命的な考え方であり、
後の「科学」というもののあり方を完全に決定づけた。

(補足)
今でも、一般の人が「これぞ科学的」といって思いうかべるのは、
この「帰納主義による科学」であろう。

だが、帰納主義による科学は、多数の問題をはらんでおり、
たくさんの批判を受け、ここから、
「科学とは何か?科学とはどうあるべきか?」
という探求が始まる。