2重スリット実験(4)
●実験Cの何が問題なのか?
実験Cについての考察の続きだ。
では、なぜこんなことが起きたのか?
実は……
それが、わからないのである!!
実験Aや実験Bなら、電子を「波」だと解釈しても、「粒子」だと解釈しても、無理やりなんとか説明することができた。だが、実験Cは、電子を「波」だと解釈しても、「粒子」だと解釈しても、決して説明できない。
というのは、
「実験Cは、なぜこんな結果になったのか?」を問いかけてしまうと、どうしても説明のつかない「矛盾」に出会うからだ。
そのへんをみてみよう。
まず、実験Cで起きていることを一言でいえば、
「電子1個がスクリーン上のどこで観測されるか?」という確率の分布が、干渉縞(波)の形になっている
ということである。
つまり、
「
電子1個1個は、干渉縞という「波の形」の確率分布にしたがって発見されるよ」
ということだ。
さてさて。
実験Cにおいて一体何が「矛盾」なのか?
それは、
「
この『干渉縞』は、一体どこからやってきたのか!?」
ということである。
そもそも、干渉縞とは、「
スリットAを通り抜けたナニか」と「
スリットBを通り抜けたナニか」が重なりあって起きている現象である。
当然のことだが、スリットBを板とかで塞いで、スリットAの1つだけで、実験Cをやっても、干渉縞は発生しない。それは、海の水を使って2重スリット実験をしても同じで、スリットがひとつだけでは、干渉縞は起こりえない。つまり、
干渉縞の発生には、「2つのスリット」が必要だということだ。
また、2つのスリットの間隔を広げたり狭くしたりすると、スクリーンに映される干渉縞の模様も変化する。
これは当然のことで、2つのスリットの位置関係を変えれば、波の重なり方も変わるからだ。2つのスリットの位置関係を変えると、干渉縞の模様も変わる。つまり、
干渉縞の形は「2つのスリット」の位置関係に依存しているということになる。
つまるところ、
干渉縞ができるためには、「2つのスリット」という存在が必要不可欠なのである。
だが、よく考えてみてほしい!
今、実験Cは、粒子として観測される電子1個を飛ばしているのだ!
実験Bの追加実験を思い出そう。
2つのスリットのそれぞれに「電子が通ったかどうかを観測するセンサ」を置いて、「電子1個」を飛ばしてみるという実験だ。このとき、
2つのセンサのうち、必ず一方しか反応しなかったではないか。スリットAのセンサが反応すれば、スリットBのセンサは反応しない。逆に、スリットBのセンサが反応するときは、スリットAのセンサは反応しない。
これは、ようするに、
電子1個は、「スリットA」か「スリットB」のどちらか一方だけを通り抜けているということを意味している。
そうすると、かなり困ったことになる。
繰り返しになるが、実験Cは、電子1個だけを飛ばしたのだ。
今、たまたま、電子1個が、スリットAを通ったと想像しよう。
それは、同時に、スリットBには何も通らなかったということを意味する。
それなのに、電子1個が観測される場所は、「スリットA,Bの2つ」で決定される干渉縞の模様にしたがうのだ。
それは非常におかしい。
電子1個が、スリットAを通ったとしたら、スリットBには何も通らなかったのだ。
だったら……、
スリットAを通り抜けた電子1個は、一体、なにと干渉したのだろう???
スリットBからは何も出てこないのだから、スリットAを通り抜けた電子1個は、干渉しようがないではないか!
電子1個が、実は分裂して、スリットAとスリットBの2つを通ったのではないかという可能性は、両方のスリットにセンサを置いた実験Bの追加実験で否定されている。
とするならば、たまたま、スリットAを通り抜けた電子1個にとって、スリットBという存在はまったく関係なく、
スリットAひとつだけで実験した場合となんら変わりないはずである。
しかし、現実には、電子1個は、「スリットA,Bの2つ」で決定される干渉縞の模様にしたがって、観測されるのだ。
一体、電子1個は、「通っていないスリットB」と、どんな関わりを持っているのだろうか?
ちょっと、整理してみよう。
・電子が、「粒子」であるとすると……
→スリットはどちらか一方しか通らないのだから、2つのスリットで生じる干渉縞という現象の説明がまったくつかない。
・電子が、「波」であるとすると……
→波なので、2つのスリットを通り抜けたと言いたいが、2つのスリットにセンサを取り付けたときの実験結果(実験Bの追加実験)と矛盾する。
さぁ、実験Cの解釈は、袋小路に追い込まれた。
この物理学最大のミステリーは、「
粒子が波のように動いている」とか「
小さな波が粒子のように見せかけている」という日常的なアイデアでは、どうも解決できそうにない。
もはや、電子は、単純な波ではないようだし、粒子でもなさそうだ。
ちなみ、これは、決して電子だけの特殊な話ではない。光はもちろんのこと、原子を使って2重スリット実験をしても同様の結果になる。それどころか、電子に比べたら途方もなく巨大な、フラーレンという「
炭素原子が60個集まってできたサッカーボール状の分子」を使っても、同様の結果になるのだ。
2重スリット実験の結果は、「電子とは……」という特殊な問題ではなく、
「物質とは本当は何なのか?」ということを我々に問いかけている。
では、この実験Cを一体、どう解釈すればいいのか……。