パイロット解釈の問題
そもそも、2重スリット実験で、科学者たちを悩ませてきた不可思議な現象とは、
「1個1個、粒子を発射しているのに、粒子が観測される場所の分布が、なぜか波の形になっているぞ」
ということであった。
この不可思議な現象のツジツマを合わせて説明するため、科学者たちは、
「1個の粒子が、観測していないときは『波』のようになって、2つのスリットを同時に通ったのさ」
というヘンテコな解釈(コペンハーゲン解釈)をせざるを得なかった。
だが、しかし!
そんなヘンテコな解釈をしなくても、パイロット解釈のように、
「パイロットウェーブという『未知の波』があって、それが粒子の行き先に影響を与えている」
という考え方をすれば、2重スリット実験を合理的に説明できてしまうのである。
しかも、このパイロット解釈の説明は、ワレワレの日常的な世界観と、とてもよく一致する。
パイロット解釈では、電子や原子や分子は、カチコチの1個ボールであり、それがコロコロと、パイロット波に乗って進んでいくだけなのだ。そして、そのうねうねと動くパイロット波が、あまりに複雑なので、電子がどこに行くかわからず、「電子の位置を確率的にしか予測できない」というだけである。
したがって、なにもわざわざ、ワレワレの日常的な直感と反するような
「観測していない電子は、可能性として多重に存在しているのだド━(゚Д゚)━ ン !!!」
「可能性だから、2つのスリットを同時に通れるのだド━(゚Д゚)━ ン !!!」
なんて言わなくても、2重スリット実験は、すっきりと説明できてしまうのである。
もちろん、このパイロット解釈を適用するなら、「シュレディンガーの猫のパラドックス」も発生しない。
だって、パイロット解釈では、
「スロットAを通った粒子、スロットBを通った粒子が重なって存在している」
というヘンテコなことを考えないのだから、当然、「生きている猫 と 死んでいる猫が重なっている」というヘンテコなことを考える必要もなくなる。
ということは、当然、「多世界」なんてヘンテコなことも言い出す必要もなくなる。
おっと、なんだか、「パイロット解釈こそが正しい」としてしまえば、量子力学のヘンテコな考え方を、すべて一掃できるように思える。その意味で、当初、科学者たちが、このパイロット解釈に寄せた期待は大きかった。
しかし、パイロット解釈には、2つの問題があったため、量子力学の標準解釈として採用されることは無かった。
その2つの問題について、少し説明しよう。
●問題1「でも、そのパイロット波って観測されたわけじゃないぞ!」
そう。あくまで、パイロット解釈とは、
「もしパイロット波というものがあれば、ツジツマが合うよね」
というだけであり、パイロット波が、実際に観測されたわけではないのだ。
もっとも、パイロット波が、「仮にあった」としても、ワレワレは「パイロット波に乗って動いている粒子」しか観測できないのだから、
つまるところ、パイロット波そのものを観測することはできない。
(ていうか、そもそも、ボクらは「波そのもの」を観測することなんかできない)
したがって、パイロット解釈が、どんなに日常的な直感と一致していようと、観測されない以上は、あくまで仮説(ヨタ話)の域を出ないのである。
ただし、……とはいうものの。観測できなくても、パイロット波があると考えれば、最も合理的に説明できるのだから、「パイロット波がある」と考えたって良いはずだ。なにより「観測していないとき、粒子は多重に存在している」と述べるよりは、よっぽど健全だろう。
そう考えれば、「観測できないこと」は、パイロット解釈にとって、それほど致命的な問題ではない。
●問題2 だって、数式が難しいんだもん!
実は、これこそがパイロット解釈の最も致命的な問題である。
パイロット解釈では、「粒子が波に乗って移動する」という日常的でわかりやすい考え方だが、これを数式にしてきちんと書こうとすると、とてつもなく面倒な方程式になってしまうのだ。
パイロット解釈の方程式とは、簡単に言えば、「波が粒子に力を加えて、粒子の軌道を変えるような方程式」なのだが、この方程式がメチャクチャ複雑で面倒くさいのだ。はっきりいって、人間が手作業で解けるような代物ではない。
しかも、方程式が複雑で難しいからといって、コペンハーゲン解釈の方程式(シュレディンガー方程式)より予測精度が高くなるわけではない。パイロット解釈の方程式でも、やっぱり確率的にしか答えをだせないのだ。
結局のところ、どっちの方程式を使おうが、
「電子が観測される場所の確率は、こういう波の形になります」
ということが導き出されるだけである。
さてさて。
パイロット解釈の方程式に比べれば、コペンハーゲン解釈のシュレディンガー方程式は、まだ簡単である。
だから、仮に、「パイロット解釈が正しいと信じている科学者」がいたとしても、そいつに、「ミクロの物質の位置を予測する仕事」を与えたら、絶対、「コペンハーゲン解釈のシュレディンガー方程式」を使って計算するに決まっている。
「なんだよ、おまえは、つねづね、コペンハーゲン解釈なんか、穴だらけのDQN理論だって、さんざん、言っていたじゃねぇか! パイロット解釈の数式を使えよ、このやろー!」
「う、うるさいな! だって、シュレディンガー方程式を使った方が、 簡単なんだもん!!」
実際のところ、現場で活躍している多くの科学者からすれば、コペンハーゲン解釈だろうと、パイロット解釈だろうと、多世界解釈だろうと、観測によって証明できない以上は、どっちも同じレベルの仮説(ヨタ話)にすぎない。
で、どっちの仮説(ヨタ話)を採用しようが、予測できる結果は一緒なのだ。
「だったら、決まってるさ!
数式が簡単な方に使うに決まってる!!」
パイロット解釈が、標準解釈として採用されなかった理由は、なにより「使いにくかった」からである。
シンプルで綺麗な数式として表現できない理論なんかに、使い道などない。こうして、パイロット解釈の研究は、下火になっていくのであった。

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