クオリア(9)物理主義でクオリアは解決できるか?その1
クオリアを科学(物理主義)で解決するのは不可能である
と、そんなふうに言われているが、実際のところ、
「脳細胞がある状態になると、あるクオリアが発生する」
という関係性は(おそらく)あるのだろうから、
「脳の状態A ⇒ クオリア(●)」
「脳の状態B ⇒ クオリア(●)」
「脳の状態C ⇒ クオリア(●)」
という具合に、「脳の状態(物理状態)」と「クオリア」の対応関係をひとつひとつ調査し、そこから「法則性」を導き出して科学理論を構築できる可能性はあるかもしれない。
つまり、
「脳の状態(物理状態) ⇒ クオリア」
を導く理論の構築は可能かもしれないという話だ。
実際、このような観点で、クオリアを説明しようと試みる脳科学者、物理主義者たちが数多く存在する。
しかし、このような「物理状態」と「クオリア」を結びつけるやり方では、解決できない「3つの問題」がある。
(1)メカニズムの問題(ハードプロブレム)
まず、仮に、そういう「脳の状態」から「クオリア」を導き出すような公式が見つかったとしても、
「なぜ脳という機械(物質)がそんなふうに動くと、そういうクオリア(●)が生じるの?」
という根本的な疑問について解答が得られるわけではない、というのがひとつめの問題である。
そもそも、どんなに脳を解剖して、その働きを調べても、脳の中で見つかるのは、原子・分子からできた脳細胞という「機械的な部品」だけである。
そして、結局、脳内で行われていることとは、その「機械的な部品」である脳細胞が、複雑に組み合わさって、「ある特定の入力信号」を「赤」だと識別するなどの情報処理を機械的にしているだけにすぎない。
実際、脳が「赤いね」と言っているときに、頭蓋骨を開けて解剖してみたところで、「脳細胞が隣の脳細胞に信号を伝えている」という機械的な動きしか見つからない。
そんなものが、どんなに集まって複雑化したとしても、そこに「クオリア(●)」が出てくる合理的な理由は一切ないし、どうして機械的な脳細胞たちが、ネットワークを形成して、情報処理を実行すると、「これ(●)」が生じるのか皆目見当がつかない。
だいたい脳が、ただの「機械的な部品の集合」であるというならば、機械なら機械らしく、「●」とか「●」とか一切感じることなく、「あの夕焼け、赤いね」「空は青いね」とか言っていればよかったのだ。
そして結局のところ、脳科学者(物理主義者)たちがやっていることは、脳を「機械的な部品の集合」として捉え、脳の「機械的な機能」を明らかにしているだけであり、そういう機能をがんばって明らかにしたところで、決して「クオリアの説明」にはいたらない。
たとえば、よくある勘違いのひとつとして、
「視神経から入力された信号を赤だと認識する脳細胞A」があり、その脳細胞Aの働きを、別の脳細胞Bが監視することで、「自分は赤いものを見ている」という主観的な情報を作り出すことができ、それにより、「主観的な赤のクオリア」が生まれるのさ、
というクオリアの説明の仕方があるが、それは単に「自分は赤いものを見ている」という情報を作り出したという説明にすぎず、「クオリア(●)の説明」には、まったくなっていない。
ようは、脳が「自分は赤いものを見ている」という情報処理を行っていることがわかったからといって、
「だからクオリア(●)がでてくるのです(^^)v」
という結論には決してつながらないという話だ。
そもそも、クオリアとは、脳細胞を駆け巡る「電気信号」のことでも、脳細胞システムが作り出す「情報」のことでもない。
クオリアとは「これ(●)」のことである。
「これ(●)」にクオリアという名前をつけただけのことである。
結局のところ、ようするに、クオリアの問題に関わっている人々の「疑問」はこうなのだ。
「はいはい、わかったよ。脳科学がすごく進んでいるのはよ〜くわかった。脳の中に、『入力された信号を赤という情報に変換して認識する機能』があるんでしょ。それはいいよ。
そして、『おれは赤いものをみている』という『主観的な立場で情報を認識する機能』もあるんでしょ。それもいいよ。
それから、『まるで火のような』とか『情熱的な』などのように、過去の記憶から『赤の独特の感じを連想する機能』もあるんだろうね。うん、とてもすばらしい機能だ。
でもね……だからってさ……、
それらの機能があったからってさ……、
これ(●)はでてこないだろ!これ(●)は!
わかる?
●←これよこれ!!
脳細胞とかの機械的な部品が大量に集まって、ものすごい高度な情報処理を実現したからって、
『●←これ』は出てこないでしょ、
って言ってるの!」
実際、脳科学(物理主義)の手法にしたがい、脳内の物質をどんなに追いかけても、そこで明らかになるのは、脳の「物理的な機械としての情報処理機能」だけであり、決して、「これ(●)がなぜ生じるか」という根本的な疑問が解決されることはないのである。
さて、話を戻そう。
今まで述べたのと同様の話で、結局のところ、脳の物理状態を綿密に調査して、
「脳の状態(物理状態) ⇒ クオリア(●)」
という法則性を明らかにできたとしても、やっぱり、
「なぜそういう物理状態だと、これ(●)が出てくるの?」
という肝心の「⇒(矢印)」の部分が、いぜんとして理解しがたい謎として残ってしまうのだ。
ここが、いわゆる
「既存の科学のやり方(物理主義)では、クオリアを解明することができないよ」
と言われるところの要点であり、物理主義的に「脳の物理状態」と「クオリア」を結び付けたとしても、解決できない問題のひとつなのである。
(補足)
だが、まあ、いいのだ。
理屈はどうあれ、脳があり、脳細胞があり、そして、現に「これ(●)」を感じてるのだから、
仕組みなんか知るか!脳細胞がたくさん集まると、これ(●)が出てくるんだよ!宇宙はそういうふうにできているんだよ!
と受けいれてしまえばいいという考え方もある。
ようは、既存の科学では説明のつかない「⇒(矢印)」の部分を、新しい宇宙の法則なのだと、未知の物理法則なのだと、そういって受けいれるという話だ。
実際、ニュートンの重力理論にしても、
「質量を持つ物体が2つある(物理状態) ⇒ 両者の間に重力という引き合う力が発生する(物理現象)」
という法則性をただ述べているだけで、肝心の「じゃあ、なんでそうなるの?」という「⇒(矢印)」部分は、まったく説明していない。
「そこはそれ、大宇宙の法則だから!」
ということで、「なぜ起こるのか?」というメカニズムには目をつぶることで、重力の理論は成り立っている。
もちろん、「⇒(矢印)」の部分を、(まだ仮説だが)重力子理論で説明することが可能かもしれないが、それでもやっぱり、「じゃあ、なんで重力子はそのように働くの?」という新しい「⇒(矢印)」が出てきてしまう。
つまり、結局のところ、どんな科学理論を持ち込もうと、「⇒(矢印)」が謎だという問題、すわなち、「なぜそうなるの?」という問題はどうしたってなくならない。
であるのだから、科学的には、「⇒(矢印)」の部分の解明は、「できるところまででいい」のだ。
結局、どの科学理論だってそうなのだから、クオリアに関する科学理論の構築だって、同じように、
「⇒(矢印)」の部分、つまり、
「なぜ、そういう物理状態だと、そういうクオリアが発生するのか」
という仕組み、メカニズム、起源については「しりません」としらばっくれればいい話で、そこを科学が完璧に説明しなければいけない義務はない。
結論として、1番目の「メカニズムの問題(ハードプロブレム)」、つまり、
「脳の物理的な機能を解明しても、これ(●)が発生する仕組みの解明にはつながらないよ」
という話は、
「そうだね、そこは説明できないね。でも説明する義務もないよ」
と切り捨てればいい話で、物理主義者、脳科学者にとってそれほど致命的な問題ではないのである。
(もちろん、「でも結局は説明できていないでしょ」という結論に変わりはないが……)
では、次の「2番目の問題」へ移ろう。
(続く)

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