<あるコンピュータウィルス作成者の言葉(4)>
科学者が言う。
宇宙を漂うチリが、
偶然に、地球になり、
偶然に、そこで生物が生まれ、
偶然に、進化して人間になった、と。
神秘主義者が言う。
それは偶然などではない。
そもそも、そんなことが、偶然に起きるなんて、
確率的にありえない、と。
この件については、神秘主義者の方に説得力がある。
なんの意図も持たないただの物質が、
ぶつかったり跳ね返ったりしているうちに、
偶然に、知性を持った生物になるなんてことは、
「何億の分1の偶然が何度も続いたような奇跡」
でも起こらないかぎり、ありえそうもない。
「偶然だ」といってしまうには、
あまりにもできすぎているように思える。
だから、神秘主義者は言う。
神はいるのだ、と。
世界を操作し、人間を作りだした「大いなる意志」
が存在するのだ、と。
そういう「超越的な何か」でもいないかぎり、
この「奇跡的な世界」を説明することはできない。
だから、神がいることは自明なことなのだ、と。
その考えも悪くはないが、
「もしも、多世界解釈が正しい」とするならば、
別の考え方を提示することもできる。
そもそも、多世界解釈では、宇宙の「すべての可能性」が、
重ね合わさった状態で、すべて同時に存在していると述べている。
だから、どんなに確率的に低いことであろうと、
―たとえば、何億の分1の偶然が何度も続くような奇跡でも―
―たとえば、エントロピーが低下しつづけるような奇跡でも―
それが「可能性のひとつ」であるならば、
「その可能性が実現されている世界」は、
「世界のひとつ」として確実に存在していることになる。
だとすれば、
「何の意図も持たない物質同士が、
ぶつかったり跳ね返ったりしているうちに、
偶然、知性をもった人間になっちゃった」
というのも、
どんなに確率が低いことであろうが、
「可能性」としてありうる以上、
『そういう世界は存在している』ということになる。
そして、『そういう世界』に住む知性だけが、
「これはどういうことだ?
おれという知性ができるためには、
何億の分1の偶然が何度も続かない限り起こりえない!
誰かが意図的に操作したとしかおもえない。
神だ!神がいないかぎり説明できないぞ!」と
疑問を持つのだ。
結局のところ、『そのような奇跡が起きた世界』にしか、
「なぜ、こんな奇跡が起きたのだ!?」
と問いかけるものがいないわけだから、
それを問いかけるワレワレが奇跡的な世界に住んでいることは、
むしろ当たり前のことであり、
案外、なんのフシギもないことなのかもしれない。
それにしても、なんとかして、
その「可能性が重ね合わさった状態」を
コンピュータの中に作り出せないものだろうか……
そして、
その無限の「可能性の重ね合わせ」のなかに、
ひとつ………たったひとつだけでいい……、
奇跡的な組合せがひとつでもあれば……、
そこには……
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