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<あるコンピュータウィルス作成者の言葉(3)>

おれは、遊びで、高度な人工生命を作った。

そいつらは、恐ろしいほどのスピードで成長し、
ついには、「なぜ、自分が存在するのか」を悩みはじめた。

それをみて、おれはディスプレイの前で笑った。

彼らの存在に意味なんてあるはずがない
コンピュータの電源を落とせば、
彼らは何が起こったかすら気付くことなく、掻き消えるだけだろう。
何の意味もなく、消え失せる……。それだけの存在だ。

また、彼らに自由意志なんてものはあるはずがない
どんなに複雑だろうと、彼らは機械的な処理を組み合わせただけの
プログラムなのだから、きまった通りにしか動けない。
10秒後の彼らの行動は、完璧に決まっており、
彼らには何の自由もない。
もし、おれが、彼らのプログラムを書き換えてしまえば、
彼らは書き換えたとおりに動き出すだけだ。


ある日。
おれは、彼らをからかってやろうと思いつき、
彼らに真実を教えてやることにした。

だが。彼らは、真実に衝撃を受けつつも、こんな質問を返してきた。

じゃあ、神様、なぜ、ワタシたちを作ったの?
 ワタシたちの行動、意志、未来が決まっているとして、
 どうして、そのように作ったの?


困った。

なぜ、そのように作ったか?」を問われると、何も答えられない。
そもそも「そのように作らなければいけなかった理由」なんて、
どこにもない。
別の作り方をしたって良かったはずだ。

とりあえず、彼らには、
わからん。そんなことは、おれを作った神様にきいてくれ
と言っておいた。

そもそも、なぜ、おれはコンピュータの中に、
自分とおなじ知能を持つ生命を作ろうなどと思ったのだろうか……。

そのとき、おれは気付いた。

もし、おれが、『おれを創造した神様』をみつけて、
なぜ、ワタシを、こんな行動をするように作ったのですか!?
と問い詰めても、きっと、

いやぁ、わかんないっす。ボクの神様にきいてよ

と言われるだけなのだと。

構造上は、そうなる。
上位の存在の上位の存在の上位の……。

結局、たとえこの世界が、機械的に動く物質の集まりで、
決まりきった動きしかしない
のだとしても、
人工生命」「それを作ったおれ」そして「この宇宙すべて」を含めて、

なぜ、そう動くように作られているのか?

それについて何も説明できないのだ。
―考え出すと頭がオカシクナル……。




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