呪術(1)

「魔術」や「死者の怨念」による呪いというものは、実際にあるのだろうか?
テレビや漫画でさかんに、さも現実にあるかのように放送されているものだから、
ぼんやりと「もしかしたらあるかも」と考えてはいないだろうか?

だが、歴史を学べばわかる。ナンセンスであると。

たとえば、呪いっていうのはこんな感じ。

1)誰かが、ある女性を殺して、その死体を山などに捨ててしまった。
2)その女性の怨念が、呪いとなり、殺した人に復讐するため、怪奇現象を起こす。

目を覚ますと、死んだはずの女が、
血まみれの恐ろしい顔で、じっとこっちを見ている……。
よく聞く話だ。
こういうとき、「霊、精神、ココロ」という科学では計り知れないものが、
不可思議な現象を起こしたのではないかと考える人もいる。

でも、そういうふうに考えるのは、
僕らが「殺人」、それも「虐殺」というものを体験してないから、
その程度のこと を『特別なこと』として認識しているだけで、
そんなことは歴史的にみれば、「日常茶飯事」なのである。

そういう歴史上の虐殺者・拷問者からすれば
「ハァ?殺したから恨まれた?怨念?呪い?バァ〜ッカじゃねえの。
 俺なんか、妊婦の腹を割いて、
 赤子を目の前で丸焼きにして、それを母親の口に詰め込んで
 その後、ゆっくり体を切り刻んで、これ以上なく苦しめて殺してやったけど、
 俺、元気っすよ?快眠、快食ですが、何か?」
という感じで、チャンチャラおかしいのである。

戦争で負けて、家族、恋人を、目の前で、拷問、惨殺、陵辱されたものたち。
権力者によって、虫けらのように命を弄ばれたものたち。
山積みになって、ゴミのように捨てられた死体たち。
そんなことは、歴史的にありふれている話なのだ。

もし、本当に、死者による怨念で「呪い」という怪奇現象が起こるなら、
歴史上の暴君や虐殺者などが、まずまっさきに対象となるべきだが、
実際にそんな話はない。
だいたいの場合、遊び呆けて国政がボロボロになって革命で失脚するか、
戦争に負けて殺されるか、普通に寿命で死ぬかで、
具体的な怪奇現象など記録に残っていない。

仮に、例外的に、伝説的に、そういう逸話があったとしても、
歴史上の虐殺者の数から考えて非常に少ない。
つまり、確率的に言っても、いくら殺したところで、
ほとんど呪いは起きていないってことだ。
死者の恨みが、呪いを引き起こし、殺人者に復讐するなら、
虐殺者は99%以上の確率で、
ソッコウで呪い殺されているはずなのにである。

なんでも、可能性というものを否定するのはよくないことではある。
だが、少なくとも歴史という材料から判断すれば、上記のとおりである。
ようするに、「ヒト」なんかいくら殺したって、
「呪い」なんて起きないってことだ。

(補足)
ただし、現代では「呪い」については、
プラシーボ効果という心理的作用で説明している。
ようするに、
「やべえ!おれ、呪われている!霊に復讐される!うわぁあ!」
という思い込みで、
体調を崩してしまう……それが呪いの正体というわけだ。

たしかに、それはあるだろう。
その意味では、「呪い」はないと言いつつも、
「思い込みによる呪い」の効果は決して無視できない。

だが…、逆に言えば、思い込まなければ、呪いは起こらないということだ。

たとえば、虫けらを踏み潰しても、何も感じないだろう。
虫けらを殺すことを「特別視」していないからだ。

つまり、他人を殺しても、
「他人を虫けら同然」として考えているならば、呪いも起きない。
良心の呵責もなく、体調すっきり、元気いっぱいである。

権力者、虐殺者、つまり、悪党には、呪いなんて関係ないのだ。

(そして、呪いだなんだと大騒ぎするのは、
 いつも思い込みの激しい小心者なのである)