時間の逆転問題

時間を反転すると、物体の運動は逆転するが、『力』の向きは逆転しない

時間が反転すると、世界はどうなるだろうか?

滝は↑へ昇り、リンゴは空に向かって飛び上がり、くっついていたS極とN極の磁石は離れ、やっと付き合えた彼女は去っていく。そりゃあ、もうメチャクチャなことが起きる。

だから、大抵の人は、物理法則も逆転してしまったのだろうと考える。時間が反転した世界は、今の世界の物理法則はまったく通用しないのだろう……と。

だが。
実は、そもそも「力」とは、位置の座標系において、時間で2回微分したものなのだから、時間の符号が逆転しても、力の方向は逆転しないのだ。

……なんて、難しい話はやめて、ビデオでも見よう。

たとえば、A地点に止まっているボールに、力を「→」方向に与えて、動かしたとする。



すると、



当然、ボールは「→」の方向に転がる。

さて、このビデオの逆再生……。つまり、時間反転したときはどうなるだろうか?



さっきの現象の逆回しだから、当然、ボールは「←」の方向に転がってくる。



で、A地点の位置にピタっと止まるわけだ。が、ここでよく見て欲しいのは、ボールが止まったということは、転がってきた方向と、逆向きに力が加わったということだ。つまり、「→」方向に「力」が加わったということだ。

あれ?ビデオの順再生でも逆再生でも、ボールに加えられた「力」は同じ方向だ。
つまり、時間が反転しても、「力」の働きには何も影響はないのだ。

じゃあ、こんな例はどうだろう?坂の上のボールを軽く押すと、ボールはゴロゴロと坂道を転げ落ち、やがて空気抵抗などの摩擦で止まる。



このビデオの逆回し、つまり時間反転はどうなるか間違いなく、ボールが「坂道を駆け上がる」という映像になるだろう。

さぁ、これをみると、「時間が逆転したから、重力が反転した」と思いたい。
だが。
実は、物理学としては何も不思議なことは起きていないのだ。

これをちょっとよく考えてみよう。 まずは、時間が正の方向の場合……



まず、そもそも坂道を転がったボールが止まったということは、何か力が加わって止まったということだ。この場合は、空気抵抗だから、ボールが転がりながら、たくさんの空気の粒子を突き飛ばして、それがボールの運動を奪っていくことになり、少しづつボールは減速して、やがて止まったのである。

という観点で、ビデオを逆再生でみてみよう。



どこからともなく、たくさんの空気の粒子が、ボールめがけて飛んできて、ボールを突き飛ばす。その結果、ボールは動き出して、坂道を登り始める。

さて。
このとき、ボールには、ちゃんと、↓向きの重力がかかっている。時間が反転して、ボールが坂道を駆け上っているときでも、ちゃんと重力は↓向きに力を加えているのだ。だから、ボールは、坂を上るたびに徐々に減速していき、最後に坂の頂上で指で押さえてもらって完全に停止するのである。

つまり、
時間が反転しても「力」の作用は何も変わらない。「力」は時間の正負に影響を受けないのだ。時間が反転しても、重力はやっぱり「引き合う力」だし、N極とS極は相変わらず引き付けあうのだ。

だから、つい先日、時間の反転が起きて、恋人が去ってしまったが、互いに引かれ合っているという「力」の方向は、不変だったのだ!
ということにしておこう……


(補足)
世の中の物理現象はすべて、「力(相互作用)」によって説明することができる。で、時間が反転しても、「力」の作用は何も変わらないのだから……つまり、時間が反転しても、「物理法則はまったく変わらない」、「世界はまったく変わらない」ということになる。

というわけで、時間が反転しても、何か特別なことが起きるわけじゃない。時間が反転する前でも、後でも、まったく同じ物理法則が働く同じ世界なのだ。だから、仮に、時間が反転した世界で、リンゴをポォ〜ンと放り投げたとしたらリンゴは、放物線を描いて飛んでいき、最後には重力に引かれて、地面に落ちる。時間が反転する前とまったく同じだ。

なぜって、時間が反転する前でも、後でも、まったく同じ物理法則が働くのだから。

とはいうものの……。それは何かおかしいように感じる。

「おいおい、なんかおかしくないか?正の時間では、赤ちゃんは老人になって、コーヒーにミルクをいれると、ミルクコーヒーになるんだぜ!じゃあ、負の時間では、老人は赤ちゃんになって、ミルクコーヒーは、元のコーヒーとミルクに分離するんだよな?いや、たとえ、それがミクロ(素粒子レベル)では、ごく当たり前の物理現象だとしてもさ、現実問題、そんな不自然な現象が起きるなんて、ありえないじゃないか!」

という指摘はもっともだ。

そして、この指摘は、
「時間は反転しても、物理法則が不変なのはわかった。それは認めよう。でも、正の時間のときにはエントロピーは必ず増大するのだから、負の時間のときには、エントロピーは必ず減少するのだろう?アンタは、時間が正でも負でも、物理法則は同じだというが、一方は、必ず増大するのに、一方は必ず減少する。全然違うじゃないか?これは一体どういうことか?」

という問いかけに変わる。

つまるところ、物理学における時間論は、
最終的には「正の時間で、なぜエントロピーは増大するのか?
という問題に行き着く。

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『てつがくフレンズ』第53話

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