フェルマーの最終定理(3) ソフィーの冒険前提事項: フェルマーの最終定理(2)
n が 3 以上のとき、 Xn+Yn=Zn を満たす自然数 X、Y、Zは存在しない この命題について、真に驚くべき証明方法を 私は発見した。だが、それを書くには、 この余白は狭すぎる。 フェルマーの死後から100年… 多くの数学者の挑戦にも関わらず、 成果を出すことができたのは、 数学の申し子オイラーだけだった。 だが、そのオイラーも、 フェルマーの最終定理を完全に証明できたわけではなく、 「nが3の場合」「nが4の場合」と限られた場合について 証明しただけだった。 それから、さらに半世紀が過ぎ… フェルマーの最終定理について、次の扉を開いたのが、 ソフィー・ジェルマンである。 もともと、ソフィーは、フランスの裕福な商人の娘であった。 父親は、すでに経済的に成功をおさめており、 物静かで美しいソフィーは、黙っていても、 優雅で快適な人生を送ることができただろう。 裕福な家庭の内気なお嬢さん。 それがソフィーの全てだった。 だが、後に、フェルマーの最終定理の第2の扉を開くほど、 聡明なソフィーは、 もしかしたら、そんな先の見えた ぬるま湯のような人生に疑問を持っていたのかもしれない。 もしかしたら、なにか心の底から熱くなれる、 一生涯を費やしても悔いの残らない、 そんな『何か』をずっと探していたのかもしれない。 幸せだが、少し霞みのかかった、 そんな平凡な毎日を過ごすソフィーは、 ある日、一冊の本に出会う。 それは、父親の書斎で、暇つぶしに拾い読みをしていたときに、 たまたま手にした本だった。 『数学史』の本である。 そこに書かれている高度な数学の内容について、 ソフィーは理解できなかったが、ただ一つだけ、 ある数学者の物語にとても心を惹かれた。 それはアルキメデスの物語だった。 アルキメデスは、砂地に数学の問題を書き、 それを解くことに熱中していたが、 そこに、突然、ローマ軍が攻め込んできた。 町の人間は、みな逃げ出してしまったが、 アルキメデスだけは、その場を離れず、 とうとう、ローマ兵に殺されてしまったのである。 彼女は、その物語に感動した。 「数学って、自分の生死すら忘れちゃうくらい、 魅力的な学問なのかな? アルキメデスが、そこまで夢中になった数学って…… もしかしたら、人生の全てを賭けるに ふさわしい『何か』なのかも!」 こうして、彼女の人生の目標が決まった。 彼女は、数学者を目指すことになる。 しかし、当時は、 「女性に学問は不要」とされていた差別と偏見の時代であり、 特に彼女の母国フランスは、その傾向が強かった。 もちろん、ソフィーの両親も、 彼女が学問に目覚めたことを決して喜びはしなかった。 「娘は、誤った道に進むもうとしており、 このままでは、女性としての一生を台無しにしてしまう」 そう考えた両親は、 ソフィーが勉強しないように監視し、 夜は、部屋から明かりと暖房を取り上げた。 しかし、彼女は、それで諦めることはなかった。 寝室にロウソクをこっそり持ち込み、 暗い部屋で、がたがた震えながら、 両親に隠れて、一生懸命、数学を勉強し続けたのである。 そんなソフィーが10代の終わりに近づく頃、 パリに数学を学べる学校が新しく作られた。 ソフィーは、どうしてもそこに入って、数学の勉強がしたかった。 しかし、「女の頭で数学は理解できない」 とさえ言われる偏見の強かった時代、 その学校に入学できるのは男性だけだった。 しかし、それでも、ソフィーは諦めなかった。 なんと、ソフィーは、 以前在籍していたルブランという名の男性の名前を騙って、 学校に潜り込むのだった。 ソフィーは、どうにかして、数学の教材や問題集を手に入れ、 レポートも、ルブランの名できちんと提出していた。 だが、そんな潜り込み生活は長くは続かなかった。 もっとも、ソフィーがただの平凡な学生であれば、何事もなく、 日々を過ごすことができたかもしれない。 だが、彼女の非凡さゆえに、彼女のレポートが、 当時、講座を担当していたラグランジュの目にとまってしまう。 ルブランは、呼び出されることになる。 19世紀最高の数学者と呼ばれたラグランジュは、 当初、独創的だが才気ある数学者の卵に、 賞賛の声をかけようと呼び出したのが、 入ったきた学生が女の子だと気づいて、唖然とする。 「ご、ごめんなさい!わたし、わたし、女の子なんです! でも、どうしても、数学が勉強したくて、その…」 女人禁制の場所に、少女が単身もぐりこむという まるでマンガのような展開に、半ば呆然としつつも、 ラグランジュは、ソフィーの数学への熱い志に打たれ、 彼女を追い出すどころか、 彼女の指導者となることを約束するのだった。 こうして、ソフィーは、ラグランジュの指導のもと、 メキメキと数学の実力を身につけ、数年をかけて、 ついに、フェルマーの最終定理の第2の扉を開ける。 第1の扉を開けたオイラーから、半世紀の間、 まったく進展がなかったのだから、 ソフィーの成果はとても大きなものだった。 ソフィーは、この成果をガウスに手紙で送っている。 ガウスは、数学王とも呼ばれ、 「数学史上もっとも優れた数学者」と評価されるほど、 偉大な数学者であり、当時、彼以外の数学者にとって、 ガウスといえば神さまのような存在だった。 それはソフィーにとっても同様であり、実際、ソフィーは、 「私のようなものが手紙を差し上げて、 あなたのような天才を煩わせてしまい、 なんと我ながら無分別なのでしょうか。 誠に遺憾に感じております」 という、とても恐縮した内容の手紙をガウスに送っている。 それどころか、偉大なガウスに対して、ソフィーは、 「自分が女だと相手にされないのではないか」と恐れ、 またしても、ルブランという名前で男のふりをして、 手紙を送るのだった。 ガウスの方はと言えば、ルブランから送られてきた 「フェルマーの最終定理の新しい研究成果」に深い感銘を受け、 彼の深い洞察力と知性を賞賛し、 「素晴らしい友人を得たことを嬉しく思います」 と気さくな手紙を返信している。 こうして、ガウスとルブランは友人となり、文通は始まった。 しかし、ルブランの正体は、ある事件がきっかけで、 またしてもあっさりとバレテしまうことになる。 ナポレオンが率いるフランス軍が、 ドイツに戦争をしかけたのだ。 フランス軍が、ガウスのいるドイツに攻め込むという話を聞いたとき、 ソフィーの脳裏に浮かんだのは、あのアルキメデスの物語だった。 フランス軍が進軍 → 戦争で町は大混乱 → ガウス様は数学に夢中 → 軍が来ても逃げない → 銃で撃たれる 「いやぁ、 |
関連事項: フェルマーの最終定理(4)
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